|
3 Glo Bug グローバグ
ブレイカウェイプールから、私たちが泊まっているロッジまでグラハムに送ってもらった。
「まま、お茶でも飲んでいただいて、」と、紅茶を煎れすすめた。
今やグラハムは、尊敬すべき釣り人である。
「ところで、ユーのキャスティングは誰に習ったのだ?」
「え?ここにいるダンナですけど。」と、シンイチを指さした。
すると、グラハムはちょっと驚いたように、
「ベター ザン ヒム。」と、言った。
立場をなくしたシンイチは、自分のおでこをポンッ、と手でたたいた。
さっきの釣りで、フライを根がかりやら、河原にたたいたりで、すっかり失くしてしまった、とボヤくと、
「じゃあ、ウチに来て巻いたらいい。」と、言う。
お言葉に甘えて、グラハムの家でフライを巻かせてもらうことにした。
ダイニングルームのテーブルに、タイイングバイスが3本セットされた。
散らかったマテリアルを後でかたずけやすいよう、一人一枚づつ、新聞紙がひかれた。
グラハムは、いくつかの箱からマテリアルやタイイングツールをとりだした。
とりあえず、ここの釣りにはなくてはならない、グローバグを巻くことにした。
このグローバグは、ウェイトを巻き込んで沈めるドロッパー用と、水中を漂わせて食わせる用と、どちらも大活躍する。
プールの深さと、流れの強さにあわせて、何段階か重さの違うものがあったほうがいいらしい。
ニュージーランドでは、河川保護のため、鉛のガン玉は使用禁止である。
なので、フライを深く沈めるためには、あらかじめフライに、ウェイトを巻き込んでおかなければならない。
グラハムが、グローバグの見本を巻いてみせてくれた。
まず、淡いピンクとオレンジのヤーンを半分づつとり、ピンクの上にオレンジをのせる。
真ん中をフックに巻きつけ、最後にハサミで一気にチョキ。
すると、アラ不思議!淡いピンクの丸のなかに、ぽつんとオレンジの目ができる。
イクラの粒のなかに、ちょっと濃い部分がある、まさにアレなのである。
この要領で、いろんな色を組み合わせていくと、ピンクとレッドのマーブル模様や、真っ赤なイクラが出来上がるのだ。
「イッツ ニュージーランド スタイル。」と、グラハムは誇らしげに笑った。
|
|
|
|
|
 |
|
|
| グラハム宅でグローバグフライを巻く |
|
グラハムは7年程前から、ツランギに住んでいるという。
それまではやはり、仕事がらあちこちを転々としたようだ。
ところで、奥さんはいったいどうしているのだろう?
娘さんがいるということは、きっと結婚していたはずだ。
3人でグローバグをいくつか巻けたので、今日のところはこのへんで終わりにし、ツールをかたずけはじめた。
グラハムは、さきほど敷いてあった新聞紙のうえに、マテリアルの残がいを、ささっとまとめ、新聞紙をまるめてゴミ箱に捨てた。
仕上げに、テーブルのうえをナプキンでふいておわり。
「なにか、飲むか?」
グラハムはキッチンへ向かい、お湯を沸かしはじめた。
おじさんの一人住まいにしては、部屋はどこもよくかたずいていた。
キッチンの流しにも、洗い物ひとつ出ていない。
タバコに火をつけたシンイチに、
「それは、テーラーメイドか?」と、グラハムは言った。
そうだ、日本から持ってきた、何の変哲もない、フツウのタバコだ。
グラハムも、イギリスメイドの”ベンソン&ヘッジス”と、いう名前のはいった箱からタバコをとりだし、おいしそうに吸った。
「ビデオを見るか?」と、グラハムは言った。
見ると、リビングには20インチ程の、真新しいSONYのテレビがソファーの隣にあるではないか。
聞くと、1年前にテレビをいれたのだという。
グラハムが特別なのか、それともニュージーランドの人はあまりテレビを見ないのだろうか。
画面には、さっき行って来たばかりの、ブレイカウェイプールが写し出された。
”ニュージランド ナショナル バンク トーナメント”というタイトルが流れた。
ニュース番組の特集のようだ。
小雨の中、いかにも素人っぽい、黄色いレインウェアを着たキャスターが、慣れない手つきでロッドを振っている。
総勢20名程の参加者が、並んでプールにはいり、キャストしていた。
4〜6ポンドのレインボウやら、ブラウントラウトを次々とヒットさせていく。釣り人にとっては、我が目を疑うような、ものすごい光景だ。
なんと、中にグラハムの姿もあるではないか!ストライクした、グラハムのロッドを黄色いレインウェアのキャスターにもたせてあげた。
キャスターはいかにもニュースリポーター風のナイスガイなのに、ヒーヒー言いながら、トラウトと格闘していた。
魚の引きがあまりに強いので、ロッドを両手でささえているだけで精一杯。
リールに手を掛けることすらできない。および腰になっているので、余計にロッドが寝てしまい、魚がなかなか寄ってこない。
グラハムが手助けしながら、なんとかランディングした。
このトーナメントでの最高記録は、7.5ポンドのブラウン。
この日一日で、一人平均、6匹キャッチというすばらしい釣果だった。
あの静かなブレイカウェイプールが、最盛期にはこんなにエキサイティングな状況になってしまうとは、、、。
画面は変わって、グラハムの家。
グラハムが、グローバグの巻き方を説明していた。
さっき、私たちが習ったばかりのやつだ。
大会のしめくくりに、黄色いレインウェアのキャスターが、ヘロヘロになりながら、リポートしていた姿がなんともおかしかった。
ビデオを見終わると、グラハムは静かに言った。
「一年中で一番、大物がよく釣れるのは、6月なんだよ。」
、、、このオヤジ、ほんとうにただの釣り師ではない。
|
|
|
4. Rent a carへつづく
The Fishing Story "Tongariro". Copyright(C) 2002 The Funtail Ltd. All right reserved. |
|
|
|
|
|
|
|